十数年間ノーメンテナンスだったKINGのOEMショックのオーバーホールの依頼を受けたので作業事例をご紹介します。本日はリアのピギーバックスタイルの作業です。
運転していると車両後方から異音がするのと乗り心地が昔よりも悪くなったとの事で点検を兼ねてオーバーホールをしたいとのリクエストです。確かにオイルが漏れて滴っているあたりずっとこの状態で乗っていたのでしょうからガス抜けはもちろんオイル漏れもして衝撃緩衝装置としては単なるオイルショック程度の仕事しかしていなかったことになります。せっっかくのKINGなのでしっかりと本来の性能を発揮出来るようにしたいと思います。
左右リアショックを外しました。本来であれば高圧ガスがリザーブタンクに封入されるのでシャフトが全部露出して伸び切った状態(フルドゥループ)になるのですが両方ガスが抜けていて手で押せばシャフトが反発無く縮んでしまう状態で戻ってこない状態でした。更には上のショックのシャフトの途中にあるドーナツ状の部品はワイパーシールが外れてしまっていた状態でした。
大抵ノーメンテナンスで異音がするという症状を訴える場合は上下のブッシングを交換します。車体とショックをボルト等で固定するマウントブッシュという部位なのですが純正とか安いショックは大体ラバーブッシュかウレタンブッシュにスリーブを入れるタイプが主流ですがKINGはレーススペックのスフェリカルベアリング(FK ROD社製が主流)を採用していてボールの摩擦部のPTFEライニングが痩せてガタ付くようになり異音が発生する場合が多いです。上の写真はショックのトップマウントのブッシングです。
これは珍しい形状のWELDループスタイルのショックシャフトです。一般的にはアルミのロッドエンドが採用されていることが多いですがWELDループにする事で1”のトラベル量が増加します。このシャフトから古いガタのあるベアリングをプレスで抜き出して新しいベアリングに打ち替える必要があります。ベアリングのサイズやもブッシングスタイルも車種によって異なります。ベアリングを圧入したらクリップでロックします。
シリンダーからシャフトを抜いたらシャフト部に付いているピストンコンポーネンツを分解洗浄してOリングや各種シールを交換していきます。ショックの要であるピストンのバルブシムも綺麗に洗浄しながらスタッキングオーダーをコンプレッションとリバウンド毎に並べておきます。OEMショックのコンプレッション側には必ずこのフラッターというスタッキングになっていてハイスピードのコンプレッションスピードの初期入力に作用するセッティングになっています。ただ、個人的にはシムの厚みを調整してあげると更にマイルドな入力に変化させることが可能です(街乗りメインの人向き)。FOXに比べてスタンダードのバルブスタックはちょっと初期入力硬めの印象を持つオーナーさんが多いのでコンプレッションアジャスターかバルブシム調整で調節することが可能です。ご参考までに。
劣化して外れていたワイパーキャップ周りとシールキャップ内部のメインシールとOリングを交換します。この汚れ具合の差が歴然です。ここが劣化するとオイル漏れの原因になります。
ピギーバックスタイルのリザーブタンクのコンポーネンツです。ジョイントスリーブのOリング4個とリザーブタンクアダプターのOリングを交換します。内部の構成部品はアルミやステンレスが多いので基本的には酸化腐食しないのですが外部接触部は流石に10年以上も放置しておくと腐食や汚れが密着しています。こういう場合は真鍮ブラシや超音波洗浄等を使ってできる限り洗浄研磨してリアッセンブルします。
ショックシリンダーはリザーブタンクと同じ6063アルミと思われがちですが実は鉄なので表面処理が剥がれると錆びてきます。ちゃんと洗車する際はショックシリンダーも洗ってあげましょう。今回はベーシックなオーバーホールなのであくまで内部構成部品とオイル交換ですがフルオーバーホールをご希望であればシャフトの研磨+ハードクロムメッキ処理やシリンダーの研磨にパウダーコート、ステッカーを新品貼り替え等のリフレッシュメニューもご用意しています。シリンダーをブラックパウダーにしてショックシャフトをゴールドカラーのハードクロムとかにしたらカッコいいだろうなと昔から妄想をしていますが未だ実現はしておりません。
オーバーホールのスパンに関しては街乗りメインであれば3年〜5年の間に実施することをお勧めします。オフロード走行を頻繁に楽しむのであればもう少し早めのメンテナンスを心がけましょう。
そろそろ10年選手も増えてきているはずなのでKINGショック本来の性能が発揮できるようにケアしてあげてくださいね。